寄稿「私をつくった展示会」佐藤寿喜(2016年度卒業)
2022.3.7更新
学生時代の忘れられない思い出は、東京の展示会に挑戦した短大2年の春休みです。
短大の2年間は、本質を突き詰めるデザインと、本物を追求するものづくりの世界に触れ、強い憧れを抱きました。反して制作は、課題にこそ向き合ってはいましたが、評価の仕方や完成が分からず、気づけば卒業制作。できたものは商品には程遠い、未熟な作品でした。漠然とした焦りの中で、ふと見た学生有志卒業制作展「TETSUSON 2015」の公募ポスターが目に止まりました。会場は東京、出展料15,000円、最終日講評あり、優秀作品は表彰。「自分は今どこに立っているのかを確認したい、もっとデザインを理解したい、いっそ酷評されたい」という想いから、挑戦を決意しました。
挫折覚悟での挑戦でした。未熟な作品でも、悩みの中で生まれた造形やプロセスに多少の自負はあったので、自分としては思い切った決断でした。フライト前日まで作品をブラッシュアップし、スーツケースにテープでぐるぐる巻きにして渡航。会場に入ったときの空気と匂いは、今も色濃く覚えています。会期中は、来場者や出展者と話してフィードバックを貰ったり、朝から夜中まで美術館や販売店を観て廻る過密スケジュールで、今振り返るとアドレナリン全開だったのかなと思います。
待ちに待った最終日の講評。審査員の方は3名で、巡回する一人一人にプレゼンをするのですが、頭の中は真っ白だったのであまり記憶がありません。結果は2/3に酷評をいただき、残り1名もリアクションは薄く、全体講評・表彰式へ。このまま大分に帰るシーンを想像しながら、呆気にとられていた時、数奇にも審査員の一人に名を呼ばれ、賞をいただきました。当人すら予期していなかったので、その場の誰もが驚いたと思います。審査員の方は、作品が未熟であることは承知の上で、構造と強度の関係が面白いと好評価、完成を条件に賞をいただきました。賞はもちろん嬉しかったのですが、それよりもこの展示会で今の自分のためになっているのは、自己の探究に能動的に動けたこと、そして様々な実感を持てたことです。
この展示会を経験するまでは、与えられたもの(課題・技術・方法・人脈 etc…)だけで出来ていた世界が、少しだけ能動的になることで、無知を自覚したり、芋蔓式に他の可能性を考えられたり、選択肢を多く持てるようになりました。
また、志を持つ人とのリアルな繋がりや、紙や画面を超えた質量や温度のある体験が、よりデザインを生業にしたい想いを強くし、自分がなにかを選択、判断する時に大切にしたい価値観を定めることができました。
今私は、大分県の研究機関で、中小企業の製品開発をサポートする仕事をしてます。県内外、多くの方々とプロジェクトを進める時に、この大学での経験が活きていると実感するので、あの時思い切ってよかったです。
当時を知る教授や同級生、先輩、後輩、また展示会で会い、今も連絡をとっている同志の皆様、支えてくれた家族にこの場を借りて感謝申し上げます。
(写真)展示会のポスターと会場風景
佐藤 寿喜
2016年度美術科デザイン専攻卒業