寄稿「工房の冬」 名誉教授 久保木眞人
2022.1.24更新
キャンパスの大規模な整備事業が始まったのは、2016年と記憶しています。私はすでに退職していましたが、「デザイン棟は取り壊して音楽ホールを新築し、芸術棟を大改修してデザイン棟にする」というような話を聞いて、随分と思い切った事をするものだと感心しました。ところで工房は? 「工房はそのままですね」
工房棟はその構造に難があり、20年ほど前から雨漏りがひどくなりました。夏は陸屋根の熱と南からの日差しで蒸し暑く、錆び付いた鉄製の窓枠を開け閉めして風を入れるのにも苦労しました。
冬はコンクリートの床からしんしんと冷え込むので業務用のストーブを入れましたが、天井の高い制作室全体を温める事は出来ませんでした。面倒なのは燃料を運ぶことで、週に二三度、事務棟横の物置から灯油の入ったポリタンクを運んでいました。主にクラフト実習室・陶芸(ろくろ)実習室・染色実習室のストーブに給油していましたが、一度にポリタンク2本をリヤカーに積んで引いていくのが常でした。
まず事務棟へ寄って、「灯油受払簿」に日時・使う場所・氏名・個数を記入して、物置の鍵を借りるのです。総務課は受払簿で残りの個数を確認し、少なくなれば業者に発注することになります。午後5時になればデザイン棟などに暖房を供給するボイラーが止まり、卒業制作シーズンには制作室でストーブを使う機会が増えます。他の学科、事務棟や付属図書館でも使いますから、早めに確保しておかなければなりません。‥ というようなことを、毎年寒さが厳しくなる頃に、学生たちに話していました。
今年の3月、コンサートを聴くために初めて新しい音楽ホールを訪ねましたが、ついでに様子を見ようと工房を覗いてみました。外観はあまり変わらないものの、なんと全室にエアコンが設置されているではありませんか。一部のレイアウトを除けば外観はほぼそのままですが、中身は大きく進化していました。
大分県立芸術文化短期大学 名誉教授 久保木 眞人(美術科デザイン専攻)