Epistula Vol.77 牛の尻尾と牛肉の血管(2024年12月)
Epistula Vol.77(2024年12月)掲載
ある著名な料理家を紹介してほしいと日本一の牧場主に頼まれて料理家の経営する割烹に案内しました。牧場主は気難しいことで有名でどんな偉い政治家でも気に食わない人にはそっぽを向くので私は心配しながら案内しました。
先付けを口に運んで「うまい」と言った後、出てくる料理を完食しても一言もしゃべりません。こちらはハラハラしていましたが、食事が終わって料理家が出てきて「いかがでした」と言ったとたん、50代後半の牧場主は腹の底から絞り出すように「わしゃこの年まで生きとって良かった!肉なら何でも準備するのでほしいものを言ってくれ」と言いました。料理家はしばし考えて、「牛のいい尻尾をいただけますか」とお願いしました。すると牧場主は唸りながら5分くらい考えた末、「半年待ってくれ。半年あればいい尻尾があるかもしれない」と答えました。聞けば、最高の牛でもいいタンが取れるのは10頭に一本、尻尾に至っては百本に1本なのだそうです。
牧場主は、「なぜお宅のステーキはこのように美味しいのか」と尋ねました。すると答えは「人間も動物も老廃物が溜まるところが一番悪いのです。血管や神経がそうです。そこで、うちではステーキを焼く前に血管や神経はすべて抜いてから焼いています。」でした。料理家はもともと東大病院の外科医でした。手術用のメスで血管や神経を抜いている姿が思い浮かびました。