Epistula Vol.70「宮内庁料理長の仕事の仕方」(2023年3月10日)
Epistula Vol.70(2023年3月10日付)掲載
私が国際通貨基金の日本代表理事の時に、予算の削減で毎年開催するパーティーの費用が半分になった。情報収集には極めて重要なパーティーで、招待客が楽しみにする日本料理の質を落とすわけにもいかず、招待客から会費を徴収することにした。これでは参加者が減る可能性がある。色々と考えた末に、宮内庁大膳であり東大外科医でもある秋山了さんに自費でワシントンに来てもらい調理してもらうことにした。
土曜日のパーティーのために水曜日に到着した秋山さんに日本食品のスーパーで食材の吟味をしてもらい、お眼鏡にぎりぎり叶うものを買って水曜日から調理にかかった。天ぷらやソバ、鶏のスープに大根や刺身などを作ってもらった。当日の午後になって最後の刺身の準備を整え、6時開始のパーティーのために3時頃から盛り付けを始めた。秋山さんはかいわれを一本一本吟味し、葉が黄色味を帯びているものは取り出して緑のものだけを大皿に盛り付け始めた。いつまでかかるか心配したが、ちゃんとパーティーの30分前には盛り付けが終わった。私にとり「慌てずに淡々と仕事を進めれば案外短い時間で仕事は終わる」という貴重な経験を貰った機会だった。